【25本目】『シンデレラストーリー』@日本青年館ホール
とにかく明るいエネルギーを浴びられるハッピーミュージカル!!
最近、(面白いけど)ヘビーな観劇が連続していた中で、オアシスのような心が洗われるミュージカルだった!ハッピーラッキーラブスマイルピースドリーム!!!
公演概要
2003年誕生の“伝説のミュージカル”が17年振りに還って来る!
本作は、「シンデレラ」を子供から大人まで楽しめるようにと鴻上尚史が書き下ろし、2003年にシンデレラ役に新人・大塚千弘、王子役に井上芳雄のコンビで初演、その2年後に王子役が浦井健治に引き継がれ再演されました。
ファンタジーとしての物語の大筋は変えることなく、魔法が解けたのにどうしてガラスの靴だけはそのままだったのか、どうして家事ばかりしていたシンデレラが華麗なダンスを踊れたのか、などリアルに考えたら避けては通れない問題に回答していくのがミュージカル「シンデレラストーリー」です。
(中略)
若いシンデレラたちを様々なジャンルから集結した個性豊かな俳優陣が支え、観客のみなさまを夢と希望の世界へと導きます。
キャスト
加藤梨里香/水嶋 凜(Wキャスト) 大野拓朗 佐藤アツヒロ
入野自由 ゆいP(おかずクラブ) まりゑ 川原一馬
和田泰右 Homer 夏目卓実
彩吹真央 吉野圭吾
アンミカ ほか
感想 ※ネタバレ注意
正直、初演再演も知らないしそんなに期待していなかった。
しかし、カラフルな衣装や、3段になった高さのある舞台、スクリーンに映される映像などみどころ多し。
全編通してちりばめられたギャグは安定していて素直に笑えたし、力を抜いてかなり楽しむことができた!
シンデレラのストーリーをベースにしながら、「そうはならんだろう」という部分をツッコミながら進んでいく感じ。
シンデレラが王子との身分違いの恋にくじけそうになり、王子の幸せを願って一度身を引こうとしたシーンからの、「実は偉い血筋の娘だった」で終わりそうになったときはハラハラしたけどそうはさすがに終わらず。
お互いに、「身分ではなく、人そのものに惹かれていた」というのがすごくよかった。
子どもたちの笑い声がたくさん聞こえたのも嬉しかったし、前の席の中高生くらいの女の子4人組も一生懸命拍手して、カーテンコールで手を振って、めいっぱい楽しんでいる様子でうるうるしそうになった。
幸せな空間をありがとう!!贅沢な時間でした!
特に気になったキャスト
加藤梨里香さん:主役のシンデレラ役はWキャストで、私が観た公演はこちらだった。とっても澄んだ声で歌が上手!良く響く通る声だった。わざとらしくない真っすぐさが好印象です。・・・なんて偉そうに書いたけど、子役時代から活躍されていて、去年はレミゼでコゼットをされた超実力派でした。上手なはずだわ!
入野自由さん:歌もうまいし、台詞のかけあいもうまいし安定感抜群!初めて出演されている舞台を観たけど、これは人気者になるはずだ、と思った(友達が長年ファン)。
千と千尋のハク役から、どんどん大きくなってすごいわ・・・
彩吹真央さん:宝塚時代の作品は、宝塚専門チャンネルで何作か拝見。「歌の上手い実力派の男役」というイメージだったけど、女声の歌も見事に歌い上げていて聴きほれました…さすがとしか言いようがない!感情が伝わってくる歌で素敵だったなぁ…
アンミカさん:インスタで「50歳にして初ミュージカル」と投稿しているのを見て楽しみにしていた。抜群のスタイルで衣装を着こなし、威厳とお茶目さを同居させた魔女役がぴったりはまってた!歌は、ところどころ中島みゆきを思わせるような、ハスキーな声と迫力が魅力的でした!うまかった!関西弁のセリフもグッドです。
歌詞に「ハッピーラッキーラブスマイルドリーム」が入っていたり、演出もアレンジされていた。
歌詞にあった、「自分を信じる勇気を持つ」には背中を押された気がしたなぁ。
ねずみたち:人形のネズミを手に持って、人間の体のほうは踊ったりしている。人形をちょこまか動かしたり、放り投げたり、キュートだった~!
「シンデレラには言葉が通じない」という設定も良かった。そんな上手くいかないよね。「ディズニーは売れるためなら何でもする」、みたいな台詞は笑っちゃった。
【24本目】劇団チョコレートケーキ『ガマ』@東京芸術劇場シアターイースト
戦争六篇のラストを飾るのは、唯一の新作『ガマ』。
戦争を回避できなかったこと、朝鮮統治、南京大虐殺、に続き「沖縄戦」という苦しいテーマ…よく向き合えるな、と思う。
沖縄戦を取り上げた舞台と言えば、ミュージカル『ひめゆり』が思い浮かぶ。
これも素晴らしい作品で忘れられないが、『ガマ』ではまた違った感情の揺さぶられ方をした。
あらすじ
一人の軍人と二人のうちなんちゅが逃げ込んだそのガマ。
負傷した少尉は、部下を見捨て民間人を見捨てて退却し、その上死ねずにいることに苦悩している。
高等女学校から野戦病院に動員されていた少女は「聖戦」を信じ抜き、少尉を助けることが御国の為と少尉を看護する。
少女を助ける先生は、別の学校の教師であり、軍の命じるまま教え子と共に動員された。そこで引率する生徒を死なせた彼は、逝った教え子と少女を重ね合わせ、彼女を見捨てられず協力している。
前線が通過し奇妙な静けさを取り戻したガマ。しかし、三人の男がその静寂を破る。
部隊の崩壊と共に目的を喪失し、ただ生きたいと願いさまよう二人の兵とその案内役を務めている動員されたうちなんちゅだ。
アメリカ軍の気配が近付き、ガマに釘付けにされる六人。「あらゆる地獄を集めた戦場」と言われた沖縄で、六人は最後の決断を迫られる…
出演
浅井伸治、岡本 篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)
青木柳葉魚(タテヨコ企画)/清水 緑/大和田獏
感想 ※ネタバレあり
始まりの完全暗転で引き込まれ、そこから2時間、ガマの中の世界にひたった。
それぞれ違った背景の6人が集まったガマ。徐々に明かされる過去と、迫ってくるアメリカ軍の影にドキドキした。
ひめゆりの学生が言ったセリフが切ない。(ニュアンスですみません)
「友達はみんな日本人として立派に死んだ」
「友達の死は無駄だったというんですか」
「どうすれば日本人と認めてもらえるんですか」
「生きたいと思っても良いのでしょうか」
当時、沖縄の人たちは日本人として認められたいという気持ちがこんなにあったのだろうか?それは知らなかった。
当時戦死した人たちの死を無駄死にだったなんて言いたくはないけど、意味があったともやはり思えない…本当に、なんてむごいんだ。
当時の日本の風潮は「生き残ることは恥」、「投降するなら自決せよ」、「玉砕せよ」。
このガマに集まった人たちはさらに、「指導した生徒が死んだ」「仲間が死んだ」「無実の人を殺した」など自分でも生き残ることに罪の意識を感じている人ばかりだった。
それでも、戦争で3人の息子を亡くした知念の心からの訴えが、ガマの人たちの希死念慮をどうにかこうにか抑え込んだわけだ。
ここの大和田獏さんのお芝居に説得力がありすぎて、言葉の重みがものすごかった。
絞り出すような「ぬちどぅ宝」の言葉がずっしり響いて…
最後、ずっと薄暗かった舞台が明るくなり、文が白旗を持って前進してきたのを見て涙がこぼれた。
生きる選択をしてくれてありがとう。
死ぬよりも辛い選択かもしれないけど、死なないでくれてありがとうという想いがあふれた。深い感動があったなぁ…
苦しみと希望を一緒に感じることができるラストシーンは秀逸だと思う。
【23本目】『ミス・サイゴン』@帝国劇場
2020年にチケットを取っていたが、その時はコロナで全公演が中止になってしまった。
今回なんとか1公演、東京の千秋楽を観ることができた。
ストーリー
1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーで、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。
したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。
今日のキャスト
メインキャストのみで失礼します。
エンジニア 市村正親
キム 昆夏美
クリス 小野田龍之介
ジョン 上野哲也
エレン 仙名彩世
トゥイ 西川大貴
ジジ 則松亜海
タム 上原琴葉
感想 ※ネタバレあり
過去2回の観劇について
「ミス・サイゴン」はこれまでに2回観たことがあった。
1回目は小学生のとき、
2回目は大学生のとき、
3回目が今回。
毎回、注目するポイントや感想が変わって面白い。
1回目は母と一緒に観た。難しすぎて途中寝てしまい(もったいない…)、ヘリコプターのシーンで起こされ、また寝て、起きたら隣で母が泣いていたことを鮮明に覚えている。
泣いている母を見るのは居心地が悪くて、不機嫌になっていた幼い自分に伝えたい。
「十数年後、おまえも同じシーンで泣いているよ」と。
2回目は、さすがに1回も寝なかった。
印象に残ったのは、ドラゴンのシーンとブイドイ。
ドラゴンは、単純に迫力と緊迫感がカッコよくてやられた。ブイドイはスクリーンに映し出された映像に衝撃を受けた。
今回
2回目を見終わってから今回までの間に、オリジナル公演、日本公演どちらのサントラもよく聴いたので、ほとんどの楽曲がなじみ深かった。
それもあってか、今までで一番、内容をしっかり理解して観ていたと思う。(とは言ってもまだ「?」な部分もあったのでもったいなかった…もっと予習して行くべきでした)
何回か回想が挟まるから、そこでわからなくなるのよ。
ヘリの登場シーンは圧巻。これこれ~!という感じ。
最後はキムとタムを想って涙があふれ、オペラグラスを持つ手が震えた…
「戦争がなければ」とかそういうのを置いておいて、ただただキムが可哀そうで仕方ない、というのが今回の全体を通した感想。
あとはダークホース、トゥイに持って行かれた!詳細は続きに。
気になったキャスト
キム(昆夏美)
初めて見たときはかなり年上に見えたキムだったが、今やだいぶ年下になった。
戦争で両親を殺され、愛した人には裏切られ。でも子どものために生き抜く強さとすべてを捨てる覚悟を持った女性。こんな人たちが、当時のベトナムにいったい何人いたのだろう?
昆さんはいろんな舞台で活躍されているが、生で見るのは初めて。
思ったよりも小柄で幼い顔立ちだったので、辛い運命に翻弄される姿を見て本当に苦しくなった。説得力がある。
小柄でありながら、ものすごい声量と歌唱力で圧倒的な存在感を見せていた。
歌のほかには、トゥイを撃ち殺した後の慟哭が・・・すごい。表情が抜け落ちていてゾッとした。サイゴンを離れるヘリを追う表情、タムを抱きしめる表情、どれも繊細だった。キムがそこにいる、と思った。
タム(上原琴葉)
「タム!」と呼ばれて登場した瞬間から、涙腺刺激装置に。
テトテトと走ってキムに抱き着くタムを見るたびに涙腺が・・・お母さんのこと、忘れないでね。でも引け目を感じず、チャンスを掴んで望むものになってね。
エレン(仙名彩世)
2年前にチケットを取ったのは、仙名さんのエレンが見たかったため。ようやく叶って嬉しかった!
宝塚の舞台で輝いていた仙名さんが、今度は帝劇の舞台で歌っている姿を見て、グッとくるものがあった。
エレンのキャラクターは、聴いていたサントラにはなかった新しい曲が追加されていて、代わりに一番好きだった曲がなくなっていたのが残念だった・・・いつの間に…
(↑キムとエレンがホテルで会った後のエレンのソロのこと)
複雑な気持ちを抱えながら、タムを育てていくのだと思うと、幸あれと願うばかり。
トゥイ(西川大貴)
今回のダークホース!!ここを一番語りたい。
まさかトゥイに目を奪われるとは…これまで注目していなかったキャラクターだったので、自分でも意外でびっくりした。
理由として、自分が成長したことで「このキャラクターの見方が変わったこと」と、「西川さんの歌と役作りの良さ」の両方があるんだろう。
これまでトゥイは、「執念深く追ってくる自己中で怖いやつ」と思っていたが、「ベトコンとして戦い抜き、当たり前のように許嫁を迎えに来たら拒絶された」不憫な人物でもあることがわかった。最初はキムのことを純粋に想っていたのに、受け入れられず狂気に向かっていってしまったような・・・
キムを自分の「もの」として考えているのは、今の時代はあり得ないが当時の貧困層では一般的な考え方だったんじゃないのかな?それに、命がけで戦ってきた敵と許嫁が結ばれたなんて、冗談じゃないと思うだろう。
西川さんのトゥイは、終始笑顔がなく思いつめたような表情をしているように見えた。それでも、キムとクリスの結婚式に乱入してきたときは「助けに来たぞ、行こう」という感じだった。それがだんだん困惑に変わり、タムを見て憎しみの感情になっていってしまったような…タムを見てえずいていたのが印象に残った。
親の言いつけを守り、ずっとキムを探していたのに、せっかく偉くなったのに、いつまでも報われない姿が哀れだった。撃たれて亡くなる前、手をキムの頬に伸ばすのも辛い。
あとは西川さん、歌が超上手い。安定していて、圧があって、歌詞が聞き取りやすい。役にもピッタリだった!
カーテンコールは途中まで凛々しくしていたのに、何回目かでちょけ始めていたのも面白かった。笑
意外な収穫もあり、とにかく満足の観劇でした。
【21本目】劇団チョコレートケーキ『追憶のアリラン』@シアターウエスト
素晴らしかった…戯曲も買ってしまった。
初演は2015年。
戦中戦後の混乱期に、朝鮮にいた日本人検事の話。
あらすじ
1945年8月、朝鮮半島は35年の長きにわたる日本の支配から解放された。
喜びに沸く半島で、在朝の日本人は大きな混乱に巻き込まれた。
拘束され、裁かれる大日本帝国の公人たち。罪状は[支配の罪]。
70年前、彼の地朝鮮半島で何が起こったのか?
一人の日本人官僚の目を通して語られる『命の記憶』の物語。
キャスト
浅井伸治(劇団チョコレートケーキ)
佐藤 誓/辻 親八(劇団トローチ)/大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)/原口健太郎(劇団桟敷童子)/佐瀬弘幸(SASENCOMMUN)/谷仲恵輔(JACROW)/菊池 豪(Peachboys)/渡邊りょう/林 明寛/小口ふみか/月影 瞳
感想 ※ネタバレあり
戦時中、日本が朝鮮でどんなことをしてきたのか。
開演前、劇場に置いてあった関連年表を読んだだけで、「なんてめちゃくちゃなことをしてきたんだろう」と、過去に対する怒りと困惑が押し寄せた。
日本の歴史の中でも最もセンシティブな問題の一つと言えると思う。
私も、歴史の授業で習った以上には興味を持つことはせず、無意識に直視しないようにしてきた。
今回、演劇という形を通してその一端を知り、考えることができて本当によかった。
ここまで人間愛に溢れたやり取りが、当時の朝鮮人と日本人の間にあったのかはわからない。でも、人としてこうでありたいと思うことが詰まっていたし、こんなやり取りがあったと信じたいと思った。
考えさせられたラストシーン。
朴が、登場人物たちの作った道(机)を進んでいく。
朴の生死が最後まで分からなかったので、彼はあらゆる人々の想いの集まった道を進んだと信じたくなった。生きていてほしいよ…
戯曲を買ったので、引用します
せっかく戯曲を買ったので、個人的に印象に残った台詞を書いておく。
任「…日本人にも良い人が沢山いることを私は知っています。しかし、そのことは現実の政治には決して反映されることはない。日本はあくまで残酷な支配者です。」
個人が良い行いをしたとしても、政治(国)には反映されず、争いが起きてしまう。今でも色々な場所で起きていることだと思うと、悲しい…
日本も例外じゃない。
任「それでも朝鮮総督府の一員であったことには変わらないでしょう。」
朴「それを言うなら私もあなたもそうでしょう?」
任「ちがいます、彼らは日本人でしょう!」
朴「日本人であると言うだけで厳しい罰を与えるのですか?」
任「それの何がいけないんです?」
朴「新しい朝鮮のために、我々は日本人を許すべきです。そうすることでわれわれは誇りを取り戻すことができる。」
加害者側が「もういいじゃん、十分謝ったから許してよ」と思っても、被害者側が許さないのなら、謝罪を辞めてはいけない。被害者が「許す」ことが何よりも重要。加害するというのはそういうこと。
大学で教わって今でも時々思い出す考え方をここでも思い返した。
朴「(歌う)アーリラン アーリラン アーラアリーヨ」
千造「朴君?」
朴「あの時、豊川さんに何回も何回も歌ってくれって頼まれました。」
千造「ああ、しまいには覚えてしまって一緒に歌った。」
朴「後にも先にもそんな日本人はあなただけです。私は嬉しかった。それからもあなたは、何度も日本人の良心を私に見せてくださった。」
千造「そんなことはないよ。私は自分可愛さに沢山のことを見て見ぬふりをしてきた。」朴「あなたが良心を見せてくれたように、今度は私が朝鮮人の良心を見せる番です。」
戦後、朝鮮の拘置所で取り調べを受ける千造の元に、元部下である朝鮮人の朴がやってきて、千造を解放しようと動き出す場面。
今でも、自分の国の歌を外国の人が歌ってくれたらうれしいのに、この時代であればその感動はひとしおだっただろう。良心は良心をうむんだなぁ…
「アリラン」はかなり昔に父から聴かされたことがあったが、改めて聴くと美しい歌だ。
承化「私は日本人の誰もかもが憎いんじゃない。実際に私たちを傷つけた日本人が憎いんだ。そして、この人の言うことを信じるなら、あの豊川はそうじゃない。」
千造を訴えた親子に朴が説得を試みた後、父親が言ったセリフ。
こうやって、「個人」と「○○人」を分けて考えることは本当に大切だと思うが、かなり難しい…
当時それができた人は、国籍問わずどれくらいいたのかな…
朴「難しい情勢ではありますが、それでも今、朝鮮による朝鮮が誕生しようとしている。新しい朝鮮を世界に誇れる国にするために、われわれは、朝鮮人だから日本人だからではなく、人間一人ひとりを大事にする国を作るべきなのではないでしょうか?」
承化「……」
朴「私は日本の朝鮮統治を反面教師としてそう考えるようになりました。確かに日本人は失敗しました。だからといって、罪のない日本人まで断罪してしまっては、我々も失敗した日本人と同じと言うことになってしまう。私はそれが許せないのです。」
川崎「僕が言いたいのは、朝鮮を故郷と思う日本人もいると言うことだ。僕らはこの土地を自分の故郷と思い、故郷のために力を尽くした。そういう日本人がいたと言うことを、この土地がわずかでも記憶してくれることを望む。」
朝鮮人による人民裁判において、裁きの対象になった一人の若い検事が言ったセリフ。
この時期は、朝鮮で生まれ育った日本人もいたのだなと。故郷と思って頑張ってきたと思うと、苦しくなる。
千造「たくさんの朝鮮人が虐げられていたのに、何も変えられなかった。」
荒木「あれが我々の正義だったとしか言いようがない。君だって大東亜共栄圏の理想を信じていただろう。」
千造「その通りです。そして悔やんでいますよ。他人の土地にずかずかと上がり込んで理想もへったくれもない。何がアジアの解放ですか?自分が人を踏みにじっておいて何を解放するって言うんですか?」
戦後、かつての上司・荒木へ向けた千造のセリフ。
確かに、いくら理想があると言っても、他人のものを侵害した時点で全て台無しになるよね…
戯曲を読んで改めて思うのは、この文章とト書きをもとに舞台を構築してしまう演出家ってすごい…ということ。
もちろん、そこに俳優たち、美術、照明、音楽、衣装などが合わさって舞台は作られる。まさに総合芸術!かっこいい!
気になった方
皆さんが素晴らしいのは言わずもがなですが…
浅井伸治さん:何を考えているのかいまいち読めない感じや、優秀さ、優しさ、正義感をいっぺんに表現していて、「朴さん」にしか見えなかった。
佐藤誓さん:「キネマの天地」(2021年)でのひょうきんな役が印象的だったので、今回はシリアスな役をどっしりと演じられていて、実力の高さを見せつけられた。
【20本目】劇団チョコレートケーキ『帰還不能点』@シアターイースト
劇団チョコレートケーキによる、戦争を扱った作品を連続上演する企画「生き残った子孫たちへ 戦争 六篇」が始まっている。
長編4本と、短編2本の計6本を上演する。以下HPより。
世界と環境が目まぐるしく変化するなか
私たちの国をもう一度見つめなおすために
これまでの作品を連作で振り返ることとしました。
私たちの今の立ち位置を確認するために。
そして、これからの時代と繋がっていくために。生き残った子孫たちへ 戦争六篇。
劇団チョコレートケーキは、ヒトラーが政権を取るまでを描いた『熱狂』をテレビで観たことがあり、いつか行ってみたいと思っていた。
6作も上演してくれるなんてこんなチャンスはない!と、迷わず観劇することに。
(どうしても都合が合わず短編2本の観劇がかなわないのは無念…)
まずは1本目『帰還不能点』から!
あらすじ
1950年代、敗戦前の若手エリート官僚が久しぶりに集い久闊を叙す。やがて酒が進むうちに話は二人の故人に収斂する。
一人は首相近衛文麿。近衛を知る参加者が近衛を演じ、近衛の最大の失策、日中戦争長期化の経緯が語られる。
もう一人は外相松岡洋右。また別の一人が松岡を演じ、アメリカの警戒レベルを引き上げた三国同盟締結の経緯が語られる。
大日本帝国を破滅させた文官たちの物語。
キャスト
岡本 篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)
青木柳葉魚(タテヨコ企画)/東谷英人(DULL-COLORED POP)/粟野史浩(文学座)/今里 真(ファザーズコーポレーション)/緒方 晋(The Stone Age)/照井健仁/村上誠基/黒沢あすか
感想
ポイントオブノーリターン
「対米戦は絶対に避けなければいけない」と誰もがわかっていたのに、結果として避けることができず、敗戦まで突き進んでしまった。
最終的に後戻りできなくなってしまった地点はどこだったのか?それを考えながら舞台は展開する。
舞台では、総力戦研究所に属していた人たちが集まり、当時を振り返る。
彼らが劇中劇を通して「帰還不能点」を探していく。
戦争を振り返る話だから重々しいかと思いきや、酔っ払いの同窓会のようなノリで、わりと明るく描かれていた(途中までは)。
明るく描かれてはいるものの、映画「日本の一番長い日」の開戦時バージョンを見ているようで、息をつめて見てしまった。
戦争に突き進む日本の文官、軍官が何を考えていたかを垣間見ることができた。
太平洋戦争といえば、軍部の意地が泥沼化させたようなイメージがあったが、初めはそうではなかったことに驚いた。むしろとてもまともで冷静な判断をして、無謀な開戦は避けようとしている。
一方で首相側が判断を誤って、日中戦争を止める機会をみすみす逃したりしていたとは。
そして、その主張が逆転してしまったタイミングが、結果として「帰還不能点」となったなんて…
戦争に至るまでのいくつかの大きな失策に注目が集まるが、最終的に「帰還不能点」となったのは、足りていなかったゴムを求めて、南部仏印へ進駐したことだった。
(南部仏印ってどこだろうと思いながら観ていたが、現在のベトナム南部なのか~)
総力戦研究所での研究の結果「日本は負ける」とわかっていたのに、何もしなかったことへの後悔の念。
それに苛まれて弱っていった山崎と、官僚を辞めた主人公。
この間ニュースで、今のウクライナとロシアの戦争を予想できなかった研究者が「今まで何をしてきたんだろうと思った」と自分への失望を語っていた。
それが自分の国のこと、しかも「予想ができていた」と考えると、辛い。
最後、もしも対米戦へと進まない選択をしたらどう動いただろうかというシミュレーションを始める場面があった。なんかそこを見てみて泣けてしまったな。
となりのトトロと火垂るの墓を見比べたときに感じるような、なんともやるせない気持ち。
もしこうなっていたらどんなに良かっただろう、何人が救われただろう。もしこうなっていたら、、、
「日本人は戦争を知っているから、もう馬鹿な選択はしないだろう」というようなセリフがあった。
私はきちんと、危険な兆候を察知できているのか?それを止めようと動けるのか?
戦争は絶対にしてはいけない。
何年経ってもそれを脳裏に刻み込んで生きていきたいし、メディアや芸術はそれを伝え続けないといけないと改めて思った。
気になった方
黒沢あすかさん:溌剌としたお店の女将から、心身共に消耗していた戦後間もない頃の落差がすごい。一瞬別の人かと思ったくらい。
【19本目】音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』@シアタークリエ
やはりこのタイトルを見ると、アカデミー賞を獲得した映画の方を思い出す。
公開当時、スラムの子どもたちを子役として採用したことが話題になっていたのを覚えている。
原作を読んだこともあるくらい、一時期ハマっていた作品なので、舞台化と知り驚いた!
しかしなぜ今なんだ?!
…というのはさて置き、感想行きます!
ストーリー
スラム街出身の青年・ラム(屋良朝幸)は、人気クイズ番組《億万長者は誰だ!》に出演し、司会者である国民的人気タレントのプレム・クマール(川平慈英)や番組スタッフ、オーディエンスの予想を裏切り、12問にも及ぶ難問を次々とクリアしていく。が、「教養があるはずの無い彼がなぜ答えを知っていたのか?インチキをしていたに違いない」と、番組の制作会社の陰謀でラムは詐欺の疑いで逮捕されてしまう。
警察の拷問でラムは自白を強要されるが、突如現れた弁護士スミタ・シャー(大塚千弘)に救われ釈放される。スミタはラムに、これまでの人生すべてについて語るよう促し、昨夜オンエアされた番組のDVDを再生する―。
捨て子として教会で神父に育てられ、育ての親の神父が殺されたこと。孤児施設に入り、映画スターを目指す親友のサリム(村井良大)と出会ったこと。怪しげな占い師から幸運の1ルピー硬貨を渡されたこと。通っていた職業訓練校で子供たちへの虐待を目撃し、施設を抜け出したこと。父親の暴力に怯える隣人の少女を助けようとし、その父親を殺害し逃亡したこと。娼婦のニータ(唯月ふうか)と出会い、燃えるような恋に落ちたこと。
次々とラムから明かされる彼の過酷な運命にスミタ・シャーは驚きを隠せずにいた。 そして、ラムは、なぜ人気クイズ番組《億万長者は誰だ!》に出演しようと決意したのか、なぜ難問を次々とクリア出来たのか、驚くべき真実を語り始めた…。
演出・キャスト
原作
ヴィカス・スワラップ著「Q&A」
上演台本・演出
瀬戸山美咲
出演
屋良朝幸、村井良大、唯月ふうか、大塚千弘、川平慈英
池田有希子、辰巳智秋、吉村直、野坂弘、阿岐之将一、當真一嘉、中西南央
感想 ※ネタバレ注意
原作の下地を用いながらオリジナルのストーリーに仕上げた映画と比べて、かなり原作に忠実な内容だった。(舞台を観てから映画を見直したので記憶は確かなはず!)
かなりうまくまとまっていて見ごたえがあり、想像を超える満足度だった!
パルクールを使った演出も良かった。役者さんたちの運動神経の良さと体力にも関心しきり。
音楽は正直微妙だったかな…私は一度では記憶に残らなかった。
でも、一緒に行った舞台好きの友人もとても楽しんでいた!
キャスト
主演の屋良さんは、初めて見る役者さん。
役作りがとても上手だと思った。実年齢は倍以上でありながら、10歳〜18歳の演技が自然に見えたのが本当にすごい。
純粋無垢な少年時代から、好きな子の前では舞い上がっちゃう青年時代、強い意志を持ってクイズ番組に出演した現在。どれも無理なく見られた。
歌と踊りがミュージカル俳優と違うのはすぐにわかった。ジャニーズ感が出ていた。
村井さんの演じる、二人の親友・サリムとシャンカールも良かった。
こちらも少年役がはまる!特にサリム訳が可愛かったな。
シャンカールは、独特な言葉を話すので難しかったんじゃないか。
占い師やシャンカールの母を演じていた、池田有希子さんも良かったなぁ。
演技ももちろん良かったし、最後に全員で歌うシーンでの表情の変化に魅せられて、一緒に楽しい気持ちになった。好きです!!
そして川平さん、うまい!!!
人気司会者としての説得力はもちろん、憎々しげな雰囲気づくりも、過去や現在に対する苦しみの表現も、歌も素晴らしかった。
舞台を引き締めていて、もっと登場シーンを見たかった。かっこいいなあ
映画との違い
映画との違いは数あれど、一番印象的だったのは、クイズ番組の司会者&テレビ局の描かれ方。
映画では最後、クイズに正解した主人公を祝福するが、舞台(と原作)ではそれがない。
むしろテレビ局は、正解されたら破綻してしまうわけだから、なんとしてでも邪魔しようとする。司会者もテレビ局からの圧力で、主人公の躍進を阻止しようと躍起になる。
さらに、実は司会者も、主人公と同じくスラム出身だったということが判明する展開・・・!
個人的には、生きるのに必死な司会者、賞金を取らせまいとするテレビ局の思惑が好きだ。今回の舞台でもそこが効いていたように感じた。
どちらにせよ、こうやって過酷な環境で生きざるを得ない人がいる。
しかもコロナがあって、ますます苦しい状況に置かれているようだ。
主人公のように一攫千金できる人は無に等しい状況だろう。
(⇩こちらのブログ参照)
【18本目】カムカムミニキーナ『ときじく~富士山麓鸚鵡鳴(22360679)~』@座・高円寺
コロナのために大阪公演が中止になり、東京の初日も中止となってしまったそうだ。今回もキャストが一人欠けていて、代役が二役を担っていた。
(かなり比重の重い役なので本当に大変だっただろう…!)
無事公演を再開できたのは良かったと思うし、観に行くことができて幸運だった。
あらすじ
紀元前221年、圧倒的な野望の力で戦国の中華をついに統一した秦の始皇帝は、死を間近にして、東海の彼方に浮かぶという神仙の霊山に不老不死の夢を抱き、奇跡の果実を探そうとする。
命を受けた方士ジョフツは三千人の童男童女を従え、歴史的大移民船団を仕立てて東の海へ漕ぎ出し、大航海の末、ついに日本の富士山麓にて不老不死の実『ときじくのかくのこのみ』を見つけ出したか、そうでないのか。その後、ジョフツは秦に帰ることなく日本に居座り、始皇帝は巨大墳墓の建造半ばで命果て、やがて秦はあっけなく崩壊する。
火を噴く古代富士山にまとわりつく、不老不死の伝説。
一方でその麓には、老いた命が捨て去られるという、帰らずの樹海の森が生い茂る。
消えぬ命と消える命。
謎めいた不死の山一帯には、時を越えて、命のやり取りがなされる不思議な時空の洞穴が今も存在する。
その恐ろしき吸引力が、いつの時代も、童男童女達を奇しき哀しき運命に誘うのだ。
キャスト
作・演出
松村 武
出演
八嶋智人 山崎樹範 藤田記子 亀岡孝洋 田原靖子 長谷部洋子 未来 柳瀬芽美
渡邊礼 スガ・オロペサ・チヅル 福久聡吾 元尾裕介 栄治郎 梶野春菜
内田靖子 赤名萌 宇留野花 河口勇太朗
松村武
感想 ※ネタバレ注意
舞台をコの字に囲んで、3方向から見られるようになっていた。
ステージは3段か4段に積まれていて、背景には布をつぎはぎしたような素材でできた大きな山(富士山)が!こういう手作り感のあるセットがとても好き。
富士の山麓を舞台に、姥捨山と、始皇帝時代の不老不死の夢が交錯するお話。
舞台となったその場所には姥捨てのしきたりが残っていて、80歳になった親を富士山に捨てにいかなければいけない。
捨てに行くまでの儀式や、聞かされる掟、
富士山の不気味さと荘厳さが舞台を通して見えて、まるでそこにいるかのような
学生時代に行った、タイの山での儀式を思い出した。
最終的に、物語の冒頭で捨てられた二人の老人(バンブーとはじめ)は、秦の時代に不老不死の果実を求めて日本へやってきた船団の一員だった。
山に捨てられるたびに、その果実がなる木を見つけて果実を食べ、生まれ変わっていたのだと理解した。
印象的だったのはこのセリフ。
「不老不死の実は、望まない人の前に現れる」(すみません、ニュアンスです)
本当に望む人の前には現れず、望まない人の前に現れるとは、なんて残酷なんだろう。
つまりこの二人の老人は、不死なんて望んでいないのに、永遠に生きながらえてしまっているということなのかな…。この辺りでは少し「ポーの一族」を思い出した。
姥捨ての習慣がなくなれば、二人はここに捨てられることも、果実を見つけることもなくなり、不死の人生を終えることができるのだろうか?
富士山の樹海は自殺の名所として良く知られているので、近寄りがたい、恐ろしいというイメージを持っていた。この舞台を観て、そのイメージがさらに膨らんだように感じる。
生きることを望まない人の前に不死の果実が現れるのだとしたら、樹海でそれを食べ、今もこの世を生きている人がいるのかもしれないと思ったりもした。
ありえないだろうけど、そんな生と死の狭間の空間があってもおかしくないような気はしてきた・・・
想像力が膨らむのは楽しい。舞台を観る醍醐味の一つでもあると思う。
こういった、時空を超えて物語が展開するストーリーを見るたびに、一体どこからこういった発想が生まれるのか、まいったという気持ちになる。とても気になるところです。
カムカムミニキーナの公演は今回初めて観たが、これまた声の良い人ばかり。バンブー、ジョフツ、カラス、おばあ、そのほかも。
最後の挨拶「助けてください」が切実で心が痛くなった。コロナのあおりを受けて本当に大変だと思う。
最後まで無事公演ができますように。また観に行きたい。