【32本目】虚構の劇団『日本人のへそ』@座・高円寺
とても面白かった!
劇団が解散してしまうのは残念だ。
ストーリー
アメリカ帰りの教授の元に集められた吃音患者たち。彼らはこれから教授の指導の下、「アイオワ方式吃音療法」によって患者の一人・ヘレン天津の半生を題材にした舞台劇に取り組むことになっていた。岩手県の農村に生まれ、集団就職で上京したヘレンは亀戸のクリーニング店に勤めるが、様々な職を転々とした後に浅草でストリッパーとなる。その後、ヤクザの女となり、やくざの親分の情婦、右翼の先生の二号、そして政治家の東京の妻となる。劇はやがてフィナーレを迎えようとしていたが、教授が背中から刺されるという事件が発生する。
(※こまつ座公演のストーリーより)
演出家コメント
2007年に旗揚げ準備公演でスタートした『虚構の劇団』は、今回、15回公演
をもって解散することになりました。最終公演は、コロナ禍で2020年に公演
が中止になった『日本人のへそ』です。井上ひさしさんのデビュー作ですが、
若い井上さんの才気とエネルギーに満ちあふれた、まさに、おもちゃ箱をひっ
くり返して、遊び倒した素敵な作品です。そのハチャメチャさ、ワイザツさ、
ぶっ飛び方、遊び方は、ちょっと比類ないものです。この戯曲に、虚構の劇団
の総力を上げて、そして客演俳優達の力も借りて、真正面からぶつかっていこ
うと思います。エネルギー溢れる、混沌とした劇場になれば素敵だと思ってい
ます。15年間どうもありがとうございました。
解散公演、盛大な花火を打ち上げたいと思います。劇場でお会いしましょう!
キャスト
久ヶ沢徹 鷺沼恵美子 倉田大輔
小沢道成 小野川晶 三上陽永 渡辺芳博 梅津瑞樹 溝畑藍
藤木陽一 辻捺々 木村友美 オカモトマサト 帯刀菜美(ピアノ伴奏者)
感想 ※ネタバレあり
戯曲について
井上ひさしのデビュー作ということで名前はよく聞いていたものの、ストーリーは知らなかったので、まっさらな気持ちで観劇した。
結果、1幕の割とショッキングな言葉や描写に辟易として、「なんでこんな作品を作ろうと思ったんだろう???」と、頭は「?」だらけに。
さらに2幕はテイストががらりと変わって、また「??」状態に。
しかしラストに向けて3回くらいどんでん返しがあって、最後まで目が離せなかった。さすがです。
この「だまされた~!」という感覚に「キネマの天地」を思い出した。
教授の超長台詞(青森から上野の駅名を言う)がすごかったのと、ソープで言葉遊びで意味不明の会話するシーンが興味深かったな。
そういえば井上ひさしはストリップ劇場で作家をしていたんだっけ。書きながらそれを思い出した。
※浅草フランス座だった。ここは渥美清、萩本欽一、ビートたけしが下積み時代を過ごした場所でもある。さらに本人は吃音症でもあったそうだ。そんな経験が色濃く反映されているんだと思うと、見え方がかなり変わってくるな!
虚構の劇団バージョンについて
劇団の解散公演にして初めて、オリジナルではなく既存の戯曲を初めて持ってきたということで、この戯曲への強い思いを感じた。
これまで何度も上演されてきた戯曲だが、この作品は音楽を自由にアレンジできるので、他の劇団との差別化も図りやすいのかもしれない。
(もちろん俳優もセットも演出も違うので別物になるに決まっているが、音楽まで変えられるというのはミュージカルではまずないことなので新鮮だった)
それでもってこの音楽がかなりキャッチ―で、耳に残ってよかった!
特に「日本のボス」とか「浮気でいいの~」、「一人二人三人のコメディアン」の曲は今でも覚えているくらい耳に残った。
この戯曲を他の劇団で観たことがないので比較はできないが、印象としては「とてもパワフル」。
出演者が全員生き生きとしているように感じられて、観ていて楽しかった。
しかし本当にグレーゾーンな台詞や演出が多すぎて(特に一幕)、笑うのを躊躇してしまうことが多々あった。すべて笑い飛ばしていいのかもしれないが、やはり自分の中にあるストッパーがかかってしまったようだ。
心置きなく笑えるような戯曲で、虚構の劇団の演劇を観てみたかったなと思った。
それから、こう言っては失礼かもしれないけれど、劇団員の中で誰が人気者なのかわからなかったため、どの登場人物が重要になるのか予想しづらかった。そのため、色々な俳優に目が行って、それぞれの演技を楽しむことができた。
例えば去年上演された、こまつ座での「日本人のへそ」には有名人が出すぎている。
井上芳雄、小池栄子が出ていれば、この二人が重要な人物なんだろうと予想ができる。
それはそれで良いけど、今回は想像がつかないまま見ていたので、より一層、アッと驚くことができたんじゃないだろうか。
また新しく楽しい演劇経験ができたことに、感謝です。