観劇100本ノックの記録

1年間で100本の観劇を試みています。

【20本目】劇団チョコレートケーキ『帰還不能点』@シアターイースト

劇団チョコレートケーキによる、戦争を扱った作品を連続上演する企画「生き残った子孫たちへ 戦争 六篇」が始まっている。

長編4本と、短編2本の計6本を上演する。以下HPより。

世界と環境が目まぐるしく変化するなか
私たちの国をもう一度見つめなおすために
これまでの作品を連作で振り返ることとしました。
私たちの今の立ち位置を確認するために。
そして、これからの時代と繋がっていくために。

生き残った子孫たちへ 戦争六篇。

劇団チョコレートケーキは、ヒトラーが政権を取るまでを描いた『熱狂』をテレビで観たことがあり、いつか行ってみたいと思っていた。

6作も上演してくれるなんてこんなチャンスはない!と、迷わず観劇することに。

(どうしても都合が合わず短編2本の観劇がかなわないのは無念…)

 

まずは1本目『帰還不能点』から!

 

 

あらすじ

1950年代、敗戦前の若手エリート官僚が久しぶりに集い久闊を叙す。やがて酒が進むうちに話は二人の故人に収斂する。


一人は首相近衛文麿。近衛を知る参加者が近衛を演じ、近衛の最大の失策、日中戦争長期化の経緯が語られる。
もう一人は外相松岡洋右。また別の一人が松岡を演じ、アメリカの警戒レベルを引き上げた三国同盟締結の経緯が語られる。

 

更に語られる「帰還不能点」南部仏印進駐

大日本帝国を破滅させた文官たちの物語。

 

キャスト

岡本 篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)


青木柳葉魚(タテヨコ企画)/東谷英人(DULL-COLORED POP)/粟野史浩(文学座)/今里 真(ファザーズコーポレーション)/緒方 晋(The Stone Age)/照井健仁/村上誠基/黒沢あすか

 

感想

ポイントオブノーリターン

 

「対米戦は絶対に避けなければいけない」と誰もがわかっていたのに、結果として避けることができず、敗戦まで突き進んでしまった。

最終的に後戻りできなくなってしまった地点はどこだったのか?それを考えながら舞台は展開する。

 

舞台では、総力戦研究所に属していた人たちが集まり、当時を振り返る。

彼らが劇中劇を通して「帰還不能点」を探していく。

戦争を振り返る話だから重々しいかと思いきや、酔っ払いの同窓会のようなノリで、わりと明るく描かれていた(途中までは)。

 

明るく描かれてはいるものの、映画「日本の一番長い日」の開戦時バージョンを見ているようで、息をつめて見てしまった。

戦争に突き進む日本の文官、軍官が何を考えていたかを垣間見ることができた。

 

軍部と近衛文麿&松岡洋右の対立がとても興味深かった。

太平洋戦争といえば、軍部の意地が泥沼化させたようなイメージがあったが、初めはそうではなかったことに驚いた。むしろとてもまともで冷静な判断をして、無謀な開戦は避けようとしている。

一方で首相側が判断を誤って、日中戦争を止める機会をみすみす逃したりしていたとは。

 

そして、その主張が逆転してしまったタイミングが、結果として「帰還不能点」となったなんて…

 

戦争に至るまでのいくつかの大きな失策に注目が集まるが、最終的に「帰還不能点」となったのは、足りていなかったゴムを求めて、南部仏印へ進駐したことだった。

(南部仏印ってどこだろうと思いながら観ていたが、現在のベトナム南部なのか~)

 

総力戦研究所での研究の結果「日本は負ける」とわかっていたのに、何もしなかったことへの後悔の念。

それに苛まれて弱っていった山崎と、官僚を辞めた主人公。

この間ニュースで、今のウクライナとロシアの戦争を予想できなかった研究者が「今まで何をしてきたんだろうと思った」と自分への失望を語っていた。

それが自分の国のこと、しかも「予想ができていた」と考えると、辛い。

 

最後、もしも対米戦へと進まない選択をしたらどう動いただろうかというシミュレーションを始める場面があった。なんかそこを見てみて泣けてしまったな。

となりのトトロ火垂るの墓を見比べたときに感じるような、なんともやるせない気持ち。

もしこうなっていたらどんなに良かっただろう、何人が救われただろう。もしこうなっていたら、、、

 

 

「日本人は戦争を知っているから、もう馬鹿な選択はしないだろう」というようなセリフがあった。

私はきちんと、危険な兆候を察知できているのか?それを止めようと動けるのか?

 

戦争は絶対にしてはいけない。

何年経ってもそれを脳裏に刻み込んで生きていきたいし、メディアや芸術はそれを伝え続けないといけないと改めて思った。

 

気になった方

黒沢あすかさん:溌剌としたお店の女将から、心身共に消耗していた戦後間もない頃の落差がすごい。一瞬別の人かと思ったくらい。