観劇100本ノックの記録

1年間で100本の観劇を試みています。

【21本目】劇団チョコレートケーキ『追憶のアリラン』@シアターウエスト

素晴らしかった…戯曲も買ってしまった。

初演は2015年。

戦中戦後の混乱期に、朝鮮にいた日本人検事の話。

 

あらすじ

1945年8月、朝鮮半島は35年の長きにわたる日本の支配から解放された。
喜びに沸く半島で、在朝の日本人は大きな混乱に巻き込まれた。
拘束され、裁かれる大日本帝国の公人たち。罪状は[支配の罪]。

 

70年前、彼の地朝鮮半島で何が起こったのか?

一人の日本人官僚の目を通して語られる『命の記憶』の物語。

 

キャスト

浅井伸治(劇団チョコレートケーキ)


佐藤 誓/辻 親八(劇団トローチ)/大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス)/原口健太郎(劇団桟敷童子)/佐瀬弘幸(SASENCOMMUN)/谷仲恵輔(JACROW)/菊池 豪(Peachboys)/渡邊りょう/林 明寛/小口ふみか/月影 瞳

 

感想 ※ネタバレあり

戦時中、日本が朝鮮でどんなことをしてきたのか。

開演前、劇場に置いてあった関連年表を読んだだけで、「なんてめちゃくちゃなことをしてきたんだろう」と、過去に対する怒りと困惑が押し寄せた。

 

日本の歴史の中でも最もセンシティブな問題の一つと言えると思う。

私も、歴史の授業で習った以上には興味を持つことはせず、無意識に直視しないようにしてきた。

今回、演劇という形を通してその一端を知り、考えることができて本当によかった。

 

ここまで人間愛に溢れたやり取りが、当時の朝鮮人と日本人の間にあったのかはわからない。でも、人としてこうでありたいと思うことが詰まっていたし、こんなやり取りがあったと信じたいと思った。

 

考えさせられたラストシーン。

朴が、登場人物たちの作った道(机)を進んでいく。

朴の生死が最後まで分からなかったので、彼はあらゆる人々の想いの集まった道を進んだと信じたくなった。生きていてほしいよ…

 

戯曲を買ったので、引用します

せっかく戯曲を買ったので、個人的に印象に残った台詞を書いておく。

任「…日本人にも良い人が沢山いることを私は知っています。しかし、そのことは現実の政治には決して反映されることはない。日本はあくまで残酷な支配者です。」

朝鮮総督府で日本人と一緒に働いていた朝鮮人のセリフ。

個人が良い行いをしたとしても、政治(国)には反映されず、争いが起きてしまう。今でも色々な場所で起きていることだと思うと、悲しい…

日本も例外じゃない。

 

任「それでも朝鮮総督府の一員であったことには変わらないでしょう。」
朴「それを言うなら私もあなたもそうでしょう?」
任「ちがいます、彼らは日本人でしょう!」
朴「日本人であると言うだけで厳しい罰を与えるのですか?」
任「それの何がいけないんです?」
朴「新しい朝鮮のために、我々は日本人を許すべきです。そうすることでわれわれは誇りを取り戻すことができる。」

加害者側が「もういいじゃん、十分謝ったから許してよ」と思っても、被害者側が許さないのなら、謝罪を辞めてはいけない。被害者が「許す」ことが何よりも重要。加害するというのはそういうこと。

大学で教わって今でも時々思い出す考え方をここでも思い返した。

 

朴「(歌う)アーリラン アーリラン アーラアリーヨ」
千造「朴君?」
朴「あの時、豊川さんに何回も何回も歌ってくれって頼まれました。」
千造「ああ、しまいには覚えてしまって一緒に歌った。」
朴「後にも先にもそんな日本人はあなただけです。私は嬉しかった。それからもあなたは、何度も日本人の良心を私に見せてくださった。」
千造「そんなことはないよ。私は自分可愛さに沢山のことを見て見ぬふりをしてきた。」

朴「あなたが良心を見せてくれたように、今度は私が朝鮮人の良心を見せる番です。」

戦後、朝鮮の拘置所で取り調べを受ける千造の元に、元部下である朝鮮人の朴がやってきて、千造を解放しようと動き出す場面。

今でも、自分の国の歌を外国の人が歌ってくれたらうれしいのに、この時代であればその感動はひとしおだっただろう。良心は良心をうむんだなぁ…

アリラン」はかなり昔に父から聴かされたことがあったが、改めて聴くと美しい歌だ。

아리랑【アリラン】韓国/朝鮮民謡 - YouTube

 

承化「私は日本人の誰もかもが憎いんじゃない。実際に私たちを傷つけた日本人が憎いんだ。そして、この人の言うことを信じるなら、あの豊川はそうじゃない。」

千造を訴えた親子に朴が説得を試みた後、父親が言ったセリフ。

こうやって、「個人」と「○○人」を分けて考えることは本当に大切だと思うが、かなり難しい…

当時それができた人は、国籍問わずどれくらいいたのかな…

 

朴「難しい情勢ではありますが、それでも今、朝鮮による朝鮮が誕生しようとしている。新しい朝鮮を世界に誇れる国にするために、われわれは、朝鮮人だから日本人だからではなく、人間一人ひとりを大事にする国を作るべきなのではないでしょうか?」
承化「……」
朴「私は日本の朝鮮統治を反面教師としてそう考えるようになりました。確かに日本人は失敗しました。だからといって、罪のない日本人まで断罪してしまっては、我々も失敗した日本人と同じと言うことになってしまう。私はそれが許せないのです。」

 

川崎「僕が言いたいのは、朝鮮を故郷と思う日本人もいると言うことだ。僕らはこの土地を自分の故郷と思い、故郷のために力を尽くした。そういう日本人がいたと言うことを、この土地がわずかでも記憶してくれることを望む。」

朝鮮人による人民裁判において、裁きの対象になった一人の若い検事が言ったセリフ。

この時期は、朝鮮で生まれ育った日本人もいたのだなと。故郷と思って頑張ってきたと思うと、苦しくなる。

 

千造「たくさんの朝鮮人が虐げられていたのに、何も変えられなかった。」
荒木「あれが我々の正義だったとしか言いようがない。君だって大東亜共栄圏の理想を信じていただろう。」
千造「その通りです。そして悔やんでいますよ。他人の土地にずかずかと上がり込んで理想もへったくれもない。何がアジアの解放ですか?自分が人を踏みにじっておいて何を解放するって言うんですか?」

戦後、かつての上司・荒木へ向けた千造のセリフ。

確かに、いくら理想があると言っても、他人のものを侵害した時点で全て台無しになるよね…

 

戯曲を読んで改めて思うのは、この文章とト書きをもとに舞台を構築してしまう演出家ってすごい…ということ。

もちろん、そこに俳優たち、美術、照明、音楽、衣装などが合わさって舞台は作られる。まさに総合芸術!かっこいい!

 

気になった方

皆さんが素晴らしいのは言わずもがなですが…

浅井伸治さん:何を考えているのかいまいち読めない感じや、優秀さ、優しさ、正義感をいっぺんに表現していて、「朴さん」にしか見えなかった。

 

佐藤誓さん:「キネマの天地」(2021年)でのひょうきんな役が印象的だったので、今回はシリアスな役をどっしりと演じられていて、実力の高さを見せつけられた。