観劇100本ノックの記録

1年間で100本の観劇を試みています。

【29本目】『アルキメデスの大戦』@シアタークリエ

この夏、劇団チョコレートケーキの戦争六篇がとても面白かった。その作・演出の二人がそろっていたので期待していて、見事に期待通りの作品だった!

3回のカーテンコールとスタンディングオベーションが、観客の満足度を物語っていたと思う。

ストーリー

1933年、軍事拡大路線を歩み始めた日本。戦意高揚を狙う海軍省は、その象徴にふさわしい世界最大級の戦艦を建造する計画を秘密裏に進めていた。

そんな中、航空主兵主義派の海軍少将・山本五十六は、海軍少将・嶋田繁太郎と対立。嶋田派の造船中将・平山忠道が計画する巨大戦艦の、異常に安く見積もられた建造費の謎を解き明かすべく協力者を探している。

そこで山本が目を付けたのは、100年に1人の天才と言われる元帝国大学の数学者・櫂直(かい ただし)。しかし、軍を嫌い数学を偏愛する変わり者の櫂は頑なに協力を拒む。そんな櫂を突き動かしたのは、巨大戦艦建造によって加速しかねない大戦への危機感と戦争を止めなければならないという使命感。櫂は意を翻し、帝国海軍という巨大な権力との戦いに飛び込んでいく。

櫂を補佐する海軍少尉・田中正二郎や尾崎財閥の令嬢である尾崎鏡子の協力によって、平山案に隠された嘘を暴く数式にたどり着くまであと少し。決戦会議の日は刻一刻と迫っている――。

天才数学者VS帝国海軍、前代未聞の頭脳戦が、ここに始まる。

 

キャスト

櫂 直 鈴木拡樹

田中正二郎 宮崎秋人
尾崎鏡子 福本莉子
高任久仁彦 近藤頌利
大里 清 岡本 篤
大角岑生 奥田達士
嶋田繁太郎 小須田康人
山本五十六 神保悟志
平山忠道 岡田浩暉

米村秀人 神澤直也二村仁弥 高橋彩

 

スタッフ

原作 三田紀房
アルキメデスの大戦』(講談社ヤングマガジン」連載)

台原案 映画「アルキメデスの大戦」
(監督 脚本:山崎 貴/製作:「アルキメデスの大戦」製作委員会)

脚本 古川 健
演出 日澤雄介

 

感想 ※ネタバレあり

菅田将暉主演の映画のイメージが強いものの、映画を観ていない(し原作の漫画も未読)ので今回の舞台が初見。

ストーリーが面白いのはもちろん、俳優陣の熱が伝わってきたし、なるほどという演出もたくさんあってかなり満足できた。

例えば、アメリカに向かおうとする櫂が、船を見送る日本人の未来を想像するシーン。手を振る人たちに突然炎が映し出されたのは怖かった…!

あとは、大和の模型を陰で表現したり、完成した大和の一部のみを舞台上に出現させたり。想像力を掻き立てられた。

 

ストーリーとしては、戦艦大和がなぜ作られたか、その理由が衝撃だった。開戦は避けられないが、日本の象徴、よりどころの船が沈めば、日本人も目を覚まして戦争をやめるだろうと考えていた平山。

そんな思惑があったとは…!でもそうはならなかったね…その目論見が外れたときの平山の絶望が胸に迫った。

櫂の台詞にもあったけど、始まってから止めるのは無理で、そもそも始めてはいけなかった。

 

大和の本当の見積もりを出すというのが物語のメインだが、黒板に式と計算を書き、それと同じ内容が後ろのスクリーンにも表れるという演出は緊張感があった。間違ったらわかっちゃうじゃん!

単純に、あれだけの数字を覚えているのがすごい。さらにセリフも膨大だし、主演の鈴木さん、すごかったです。

 

そんな櫂と、そのお付きになった田中のやり取りがけっこうおもしろくて笑いが起きていた。(そんなに笑う?!というくらい!笑)

 

終わり方があっけなく感じたのが少し残念だった。

大和が沈んでもなお戦争をやめない日本に絶望して、責任を果たす方法として死を選んだ平山に対し、「生きて語り継ごう」と握手をする櫂と田中で終わる。ちょっときれいにまとまりすぎている感じがしてしまった。しかしこれは好みの問題かと!

自分なら、櫂と田中のように生きる道と、平山のように死ぬ道とどちらを選ぶだろう。後者のような気がするな…

※観劇後に映画のラストを確認したら、出航する大和を見送り、「日本を見ているようだ」と涙を流す櫂で終わっていた。個人的にはこちらの方がずっと好き。でも平山が自殺するのも欠かせないと思うし、結局どちらも捨てがたい。漫画はどう終わるんだろう?

 

戦争六編と本作を通じて、日本がした戦争についてだいぶ理解が深まったように思う。たくさんの負の側面を知ったし、いかに無益なことだったかを痛切に感じた。

アメリカと戦争をしたら負ける」と知っていた軍部関係者や偉い人たちはたくさんいたのに、なぜ開戦してしまったんだろう。止めたかったのにどうしようもできなかった人たちの後悔や、巻き込まれた国民を想うと辛くて仕方がない。

今のロシアを見ていて、本当におかしな大統領だ、それを支持するのなら国民もおかしいと思ってしまうけど、きっと当時の日本も外国からそう思われていたんだろうな。

いざというときには、なんとしても戦争には反対の気持ちを表そう。