観劇100本ノックの記録

1年間で100本の観劇を試みています。

【10本目】劇団扉座第73回公演『神遊 ―馬琴と崋山―』@座・高円寺

「神遊」は「こころがよい」と読む。

 

 

 

公演について(作・演出より)

 滝沢馬琴を書いてみます。馬琴の息子・宗伯の親友であり、馬琴がその息子以上に好ましく思っていた、といわれる、武人にして天才画家であった渡辺崋山との関わりを中心に描きます。
 馬琴は、29年前にスーパー歌舞伎八犬伝」を三代目猿之助さんの許で書かせて頂いて以来、いつか取り上げようと決めていた人物です。早すぎる息子の死と、幕府の弾圧による崋山の死。視力を失った上に、ふたりの息子に先立たれ、尚、創作に狂う姿に、呆れつつ惹かれます。
 昨年上演しました、杉田玄白『解体青茶婆』に続く「いつかやると決めていたけど、ついにその時が来たシリーズ」第二弾です。

横内謙介

滝沢馬琴南総里見八犬伝

渡辺崋山=そういえば日本史で聞いたことある名前だな…

程度の認識。上の文章の時点で、知らないことばかり。

 

演出・出演者

【作・演出】

横内謙介 

 

【出演】

岡森 諦 中原三千代 有馬自由 伴 美奈子 山中崇史  犬飼淳治  鈴木利典 松原海児 野田翔太 早川佳祐 砂田桃子  白金翔太  北村由海 紺崎真紀 山川大貴 小川 蓮 翁長志樹 大川亜耶

 

感想 ※ネタバレ注意

泣けましたこれはあかん

ポスターから想像していた重苦しさはあまりなく、2時間半が苦にならない名作だった。

 

冒頭、いきなり語りのお兄ちゃん(犬飼淳治)が登場して明るい雰囲気にしてくれた。予想外にポップな感じで始まったのでびっくり。

この語りがとても良い味を出していて、時には講談師のように語ったり、客席の反応を見ながら楽しんで語ってくれていた。小難しそうなテーマだと身構えていたけど、この語りのおかげで緊張がほぐれ、内容にすっと入り込めたように思う。犬飼さんの作り出す空気感がまず良かった!

 

そして、渡辺崋山山中崇史)の、明朗快活、親しみやすく正義感のある人気者ぶりも、馬琴(岡森 諦)の頑固な偏屈ジジイぶりも最高にはまり役。馬琴がこんなにも小難しい人だったとは…!途中本当に馬琴を嫌いになりそうだった。笑

 

でも、物語の終盤でようやくわかったのは、小説を書き上げることにとにかくこだわった馬琴の覚悟と、色々と不器用すぎだったということ。

 

崋山が捕らえられ、弟子たちとお竹から、命を助けるために一筆書いて欲しいと言われた時、頑なにこばんだ馬琴。我が身が可愛くて命乞いをしていたのだと思い、登場人物にののしられ、観客にも嫌われた。

でも、嫁である路(伴 美奈子)が「もうおやめください」と言って神仏に祈るような仕草をしたときに、路には私に見えていない馬琴の心が見えているのかもと思った

 

それがわかるのが、馬琴が両目を失明したとき。

照明のない真っ暗な空間で、馬琴の声が響く。(すごく印象深い照明)

八犬伝を完結させるために、路に口述筆記を頼んだ馬琴。これまで散々ひどい扱いをしてきた路に対して「お前しかいないんだ」と、ちょっと都合が良すぎるんじゃないの発言をする。

それでも、路は涙して、「八犬伝を完結させることを選んでくれたのが嬉しい」と泣く…

馬琴からかなり酷い扱いを受けていたのにですよ。一番近くでずっとその姿を見てきたからこそわかる馬琴の本心を、路はしっかり受け止めていたんだなとわかって一緒に泣いちゃった…

真っ暗になった中で、馬琴の心と路の心が通じ合った。

その後、馬琴が路をたたえた文章が読まれて、本当にじーんとした。

 

そしてラストシーン。崋山が自害し、八犬伝が完結したあと。

花見の席で馬琴が叫んだ言葉から、馬琴が崋山のことをどれだけ深く思っていたのかがわかり、涙があふれた。

唯一無二と言っても良い尊敬できる兄弟だもんね…想いを封じて、小説の完結に心血を注いだ馬琴と、それを支えた路の覚悟よ。。

馬琴が28年間かけて、魂を込めて書いた「南総里見八犬伝をしっかり読んでみたいと思ったが、その巻数(98巻106冊)を聞いて諦めそう。馬琴としては不服かもしれないけど、漫画とか映像でチェックするしか…!

 

 

思いのほか馬琴推しの感想になってしまったが、崋山サイドもとてもよかった。

崋山のすがすがしい生きざまと、弟子たちや竹との心が通い合う交流が描かれていて心が洗われた。

特に、崋山が弟子たちにこれからを託したシーン。背景の暗幕が分かれて青空が現れ、切なくも感動的だった。

 

帰り道、「泣きすぎた」という女性が数人いて静かに共感した。

良い劇団、役者、演目に巡り合えることの幸せを嚙み締めた帰り道でした。